横浜地方裁判所 昭和49年(行ウ)22号 判決 1976年5月14日
神奈川県秦野市曽屋二九三九番地
原告
有限会社 新貴亭
右代表者代表取締役
山田初子
同
山田昇平
同
山田貴志夫
同
末永芳久
右訴訟代理人弁護士
畑山穣
同
増本一彦
右訴訟復代理人弁護士
稲垣義隆
神奈川県平塚市平塚三六〇九番地
被告
平塚税務署長
宮崎功
右指定代理人
筧康生
同
扇沢義弘
同
仲尾庄一
同
蟻坂欣一
同
大沢清孝
主文
一、被告が原告に対し、いずれも昭和三九年六月二六日付でした「昭和三五年五月一日から昭和三六年四月三〇日までの事業年度分法人税額等の更正処分および加算税の賦課決定処分に対する異議申立」の棄却決定(平直法特第一九号)、「昭和三六年五月一日から昭和三七年四月三〇日までの事業年度分法人税額等の更正処分および加算税の賦課決定処分に対する異議申立」の棄却決定(平直法特第二〇号)ならびに「昭和三七年五月一日から昭和三八年四月三〇日までの事業年度分法人税額の更正処分および加算税の賦課決定処分に対する異議申立」の棄却決定(平直法特第二一号。但し、昭和四〇年九月一七日付裁決によつて取消された部分を除く。)をいずれも取消す。
二、訴訟費用は、当審および差戻前の第一、二審を通じ全部被告の負担とする。
事実及び理由
第一、当事者の求める裁判
一、原告
主文と同旨。
二、被告
1 原告の各請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
第二、当事者間に争いのない事実
(一) 被告は、原告に対し、いずれも昭和三九年三月二一日付で昭和三五年五月一日から昭和三六年四月三〇日までの事業年度分法人税額等の更正処分および加算税の賦課決定処分(以下併せて三五年度分原処分という。)、昭和三六年五月一日から昭和三七年四月三〇日までの事業年度分法人税額等の更正処分および加算税の賦課決定処分(以下、併せて三六年度分原処分という。)ならびに昭和三七年五月一日から昭和三八年四月三〇日までの事業年度分法人税額の更正処分および加算税の賦課決定処分(以下、併せて三七年度分原処分という。)をした。原告は昭和三五年度中は青色申告法人、昭和三六、三七年度中は白色申告法人であつた。
(二) 原告は、被告に対し、いずれも昭和三九年四月二一日付で、前記各原処分につきそれぞれ異議申立(以下、それぞれ本件三五年度分異議申立、三六年度分異議申立、三七年度分異議申立という。)をしたところ、被告は、これらに対し、いずれも同年六月二六日付で右申立をそれぞれ棄却する旨の各決定(以下、それぞれ本件三五年度分決定、本件三六年度分決定、本件三七年度分決定という。)をなした。(本件各異議申立の不服事由および本件各決定の附記理由は別紙(一)記載のとおりである。)
(三) なお、原告は、東京国税局長に対し、本件各決定後の各原処分につき、それぞれ本件各異議申立と同一の不服事由を含む審査請求をしたところ、三五年度分および三六年度分の各原処分については昭和四〇年七月二九日付で、三七年度分原処分については同年九月一七日付で別紙(二)記載のとおりの各裁決があつた。(三五年度分および三六年度分原処分に対する各審査請求についてはいずれも請求棄却、三七年度分原処分に対する審査請求については原処分の一部を取消しその余の部分についての審査請求を棄却する旨の各裁決)
第三、争点
一、訴の利益
(原告)
(一) 本件各決定が判決によつて取り消されると、行政事件訴訟法第三三条第二項により被告は判決の趣旨にしたがい本件各異議申立につき改めて決定をする義務を負うのであつて、この場合には昭和四五年法律第八号による改正前の国税通則法(以下旧国税通則法という)第八〇条第一項第一号の「みなす審査請求」の規定は適用されないと解すべきである。さもないと、同条項括弧書が、同条項所定の場合でも異議申立人があくまで原処分庁の決定を希望して別段の申立をしたときは、異議申立は「みなす審査請求」に移行しないで引続き原処分庁に係属する旨を規定し、異議申立人に行政不服審査法の定める二審制の利益を保障した趣旨が没却されるからである。
(二) 仮に右主張が容れられないとしても、本件各異議申立はいずれも昭和三九年四月二一日になされたから、同条項により審査請求がなされたとみなされる日は同年七月二二日であるところ、被告は、それ以前である同年六月二六日に本件各決定をしたので、本件各決定が後に判決によつて取消されると、同条項所定の三か月の期間は当然中断され、本件各異議申立が「みなす審査請求」に移行するには、判決後さらに三か月を経過する必要があると解するのが相当である。そうすると、本件各決定が判決によつて取消された場合、本件各異議申立は当然には「みなす審査請求」に移行せず、この場合にはすでになされた審査請求および裁決はすでにその前提を失い無効となる筋合である。
(三) 本件各決定の理由附記が不備であれば、それは本件決定に固有の瑕疵であつて、審査請求に対する裁決とは何の係りもないものである。したがつて、本件各決定に瑕疵がある以上、原告はその取消しを求める利益があるものというべきである。
(被告)
(一) 本訴において、仮に本件各決定が取消されたとすると、本件各異議申立の段階に復帰することになるが、右各申立後すでに三か月を経過しているから、右各申立は、当然東京国税局長に対する審査請求とみなされることになる(旧国税通則法第八〇条第一項第一号)。ところが、同局長は、さきに原告からなされた各原処分に対する各審査請求(いずれも本件各異議申立の不服事由を含む事項を不服事由としている。)に対し裁決をしているので、右の「みなす審査請求」は二重請求となるから、これについて改めて実体的判断をすることなく却下裁決をするほかはない。したがつて、右の「みなす審査請求」が却下されることが明らかである以上、原告は本訴で本件各決定を取消す法律上の利益を有しないものといわなければならない。
(二) 仮に、判決によつて本件決定が取消された場合、旧国税通則法第八〇条第一項第一号の「みなす審査請求」の規定が適用されないとしても、すでに原告は、各原処分に対し審査請求をなし、これについて実体的裁決を受けているから、本件各決定の取消を求める利益はない。なんとならば、本件各決定が判決で取消されたのち、被告があらためて理由を附記した決定をしても、すでに審査庁において実体的裁決をしている以上、再度の異議決定に対してなされる審査請求については、審査庁としてはこれを却下せざるを得ないからである。
(三) また、本件各決定が理由附記の不備を理由に判決によつて取消されても、審査請求についての各裁決に十分な理由が示されている以上、被告は判決の趣旨にしたがい本件各異議申立につきあらためて決定するにあたり、右各裁決に示された理由と同一の理由を示せば足りるのであり、したがつて、本件各決定を取消し、あらためて理由の附記を求めることは無意味である。
よつて、本訴はいずれも訴の利益を欠き不適法である。
二、違法性
(原告)
(一) 本件各決定は、いずれも理由不備の違法がある。
1 本件三五年度分決定および本件三六年度分決定の各決定書の附記理由について
右各決定書の附記理由では、山田初子の個人預金がすべて原告の総収入金額となる理由、右個人資金の運用を考慮しなくてよい理由と、これらの根拠資料の具体的内容等は明示していない。
2 本件三七年度分決定の決定書の附記理由について右決定書の附記理由では、山田初子の個人預金可能額を、その預金の期首期末高から推計した根拠およびその数額被告の主張する粗利益率および原告に対する更正所得額の根拠、貸付金を認めた理由ならびにこれらの根拠資料の具体的内容を明示していない。
3 よつて、本件各決定書の附記理由は、いずれも、原告の不服申立事由に対応せず、その結論に到達した過程が不明であるから理由不備である。
4 原告は、被告に対し、本件各異議申立前後に各原処分をなした理由を再三質したが、被告はその説明を拒否した。さらに、被告は、本件各決定の審理中、その義務である補正命令(行政不服審法第二一条)をもなさず、本件各異議申立に伴う原告の主張立証活動を制限した。そのため、原告は、原処分の詳しい理由を知り得なかつた。このような場合には、とくに具体的な理由を明示すべきである。
(二) 仮に、審査請求に対する裁決の理由の附記が十分であるとしても、本件各決定の違法性は消滅しない。
1 審査請求は原処分を対象とし、本件各決定を対象としていないから、その裁決が本件各決定に影響を及ぼすいわれはない。
2 行政不服審査法第四八条、第四一条一項の趣旨は、異議申立に対する決定に関し、他の書面によつて決定理由が推知できる場合でも、決定書自体に適法な理由が記載されることを効力要件としていると解されるから、審査請求に対する裁決理由が本件決定の理由不備を補正することはない。
3 審査請求に対する裁決は、実質的には第三者機関である協議団の判断に基づくもので(旧国税通則法第八三条)、原告は、納税者として原処分庁である被告自身の判断理由を求める権利がある。
(被告)
(一) 本件各決定は、いずれも原告の不服事由に対応した理由附記があり、適法である。
1 異議申立制度は、国民の権利利益の救済とともに行政の適正な運営を図ることを目的としており、したがつて、不当な行政権の恣意的な行使が許されないばかりでなく、国民の権利利益の救済をのみ重視し、ふまじめな、ことさら行政の執行に言いがかりをつける理不尽な不服申立もまた許されないものである。したがつて法の要求する異議申立決定に付すべき理由の程度も、不服申立をする国民の態度によつても影響されるのであり、異議申立が真摯なものでその不服事由が具体的かつ詳細に示されている場合には、附記理由も詳細でなければならないが、異議申立がふまじめで、ことさらに行政の執行に言いがかりをつけるようなものであつて、その不服事由が法律上無意味なものであるとか、単に不服を唱えるにとどまり処分庁の釈明にも調査にも応じないなどの場合は、理由附記の程度も簡単なもので足りるのである。
2 本件三五年度分異議申立および本件三六年度分異議申立の各不服事由は、いずれも売上入金額と認定された山田初子個人名義預金中、幾何の金額かどのような根拠で個人資金の運用であるとするのか等の点につき、その理由を明示せず、証拠資料も提出していない。そして、本件三七年度分異議申立の不服事由は、売上入金額と認定された山田初子個人名義預金中、どの部分の幾何の金額が純粋の個人預金であるか、また貸付金不存在の理由等を明示せず、証拠資料も提出していない。さらに、原告は被告に各原処分理由を質したことはなく(なお、昭和三六年度および昭和三七年度の時点においては、原告は白色申告法人であつたから異議申立決定前に両年度分の原処分の理由を被告が開示する義務はないが、昭和三五年度の時点においては、原告は青色申告法人であつたから同年度の原処分の理由は聞知できるはずだつた。)、かえつて原告は各原処分に対する具体的不服事由を推知できたのに、これを明確にすることを回避し、本件各決定の審理過程で被告の釈明に応ぜず、調査活動を妨害した。
このように、不服申立事由が抽象的であり、被告の態度も真摯な行政救済制度の利用と認められないから、本件各決定に附する理由も簡潔な理由と結論のみを示せば足りるのであり、本件各決定はこれに沿う必要十分な理由附記があつたものといえる。
(二) 仮に、本件各決定に理由不備の違法が存するとしても、別紙(二)記載のとおり原告のなした審査請求に対する各裁決において、詳細な理由附記があるから、本件各決定の違法性は消滅した。
第四、証拠
一、原告
(一) 差戻前の当庁昭和三九年(行ウ)第一五号関係
1 甲第一ないし第四号証
2 証人末永芳久、同須藤誠治、同宮内靖起。
3 乙号各証の成立は認める。
(二) 差戻前の当庁昭和三九年(行ウ)第一六号関係
1 甲第一ないし第八号証。
2 乙号各証の成立は認める。
(三) 差戻前の当庁昭和三九年(行ウ)第一七号関係
1 甲第一ないし第七号証。
2 乙号各証の成立は認める。
二、被告
(一) 差戻前の当庁昭和三九年(行ウ)第一五号関係
1 乙第一ないし第三号証、第四ないし第六号証の各一、二、第七号証。
2 証人須藤誠治、同宮内靖起。
3 甲号各証の成立は認める。
(二) 差戻前の当庁昭和三九年(行ウ)第一六号関係
1 乙第一ないし第三号証、第四ないし第六号証の各一、二、第七号証。
2 甲号各証の成立(甲第六ないし第八号証は原本の存在共)は認める。
(三) 差戻前の当庁昭和三九年(行ウ)第一七号関係
1 乙第一ないし第三号証、第四ないし第六号証の各一、二、第七号証。
2 甲号各証の成立(甲第五ないし第七号証は原本の存在共)は認める。
第五、争点に対する判断
一、訴の利益について
原告のなした本件各異議申立は、本件各決定が判決によつて取消されても、旧国税通則法第八〇条第一項第一号の規定により審査請求に移行するものでないと解すべきことおよび原処分を維持して審査請求を棄却する裁決があり、これに適法な理由附記があつたとしても、これによつて異議申立人が異議決定における理由附記の不備の瑕疵を主張してその取消を求める訴の利益は失われるものでないと解すべきことは、すでに本件上告審判決(最高裁判所昭和四九年七月一九日第二小廷判決)の示すところであり、したがつてこれと異なる見解に立つ被告の主張は、いずれも理由がないものといわなければならない。
二、違法性について
(一) 旧国税通則法第七五条、行政不服審査法第四八条、第四一条第一項が異議決定審査裁決に理由を附記すべきものとしているのは、異議決定庁、審査裁決庁の判断の慎重公正を期し、その恣意を抑制するとともに、決定、裁決の理由を明らかにすることによつて不服申立人に原処分に対する不服申立ないしは取消訴訟の提起に関し判断資料を与える趣旨に出たものと解される(本件上告審判決参照)。このような法意に照らすと、右決定、裁決に附記される理由の程度は、不服申立人の不服事由に対応してその結論に到達した過程を明らかにするものでなければならないのであつて(最高裁判所昭和三六年(オ)第四〇九号、昭和三七年一二月二六日第二小法廷判決参照)、このことは納税申告がいわゆる青色申告によるか白色申告によるかによつて差異を生ずるものではないと解するのが相当である。
(二) これを本件についてみるに、原告の挙げた不服事由(別紙(一)記載)に対応して、被告が附すべき理由の内容は、三五年度分および三六年度分異議棄却決定については、法人の代表者の個人預金は一般的にみて当然にはその法人の所得と言えるものではないから、原告の代表者の一人である山田初子の個人預金がすべて原告の収入金額であると認定した根拠と資料を挙げて右各決定に到達した過程を明らかにすることであり、三七年分異議棄却決定については、前同様原告の代表者山田初子の個人預金が原告の収入金額であると認定した根拠資料および貸付金の存在を認定した根拠、資料を挙げて右決定に到達した過程を明らかにすることである。しかしながら、本件各決定附記理由(別紙(一)記載)においては、被告の前記各認定の根拠を示すのは、「山田初子の供述」または「山田初子の供述」と「当署の調査時の確認」だけであり、山田初子のいかなる供述と税務署のいかなる内容の調査とそれによるいかなる確認かについては一切示していない。これでは原告の本件各異議申立の不服事由に対し、被告がどのような資料と判断によつて本件各決定に到達したかを知ることは困難であり、本件各決定はいずれもその附記理由が不備であるといわなければならない。なお、被告は不服申立をする国民の態度が真摯か否かによつて理由附記の程度が異なる趣旨の主張をするが、法律が異議決定に理由を附すべき旨を規定しているのは、行政機関としてその結論に到達した理由を相手方国民に知らしめることを義務づけているのであり、国民は自己の主張に対する行政機関の判断とその理由とを要求する権利を有するものであるから、異議決定庁が申立人の主観的態度を判断し、それに従い対応を異にしてよいとするならば、そこに行政の恣意、不公平をもたらし、国民の権利を害するおそれがないとはいいきれず、このようなことは許されるべきではない。異議決定庁は、申立書に記載された不服事由に対応して申立人にその結論に到達した理由を明らかにすべきであり、申立人の主観的態度を考慮すべきではない。
(三) 次に、被告は、審査裁決に詳細な理由が附されてあるから本件各決定の附記理由の不備の違法は治癒された旨主張するが、異議決定の理由附記に不備がある場合には、当該異議決定はそれに固有の瑕疵あるものとして違法となり、のちになされた審査裁決に適法な理由があるからといつて、右異議決定の瑕疵がこれによつて当然には治癒されるわけではない。(本件上告審判決参照)
第六、結論
以上のとおり、本件各決定にはいずれも理由附記不備の違法が認められ、原告の各請求はすべて理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 加藤広国 裁判官 山田忠治 裁判官戸館正憲は転任につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 加藤広国)
別紙(一)
<省略>
<省略>
別紙(二)
(a) 昭和三五年五月一日から昭和三六年四月三〇日までの事業年度
裁決 審査請求を棄却する。
裁決の理由
1 昭和三九年七月二二日当局協議団が受付けた、審査請求書記載の請求の趣旨において昭和三五年五月一日から昭和三六年四月三〇日にいたる事業年度の法人税および加算税に関する異議申立てに対する棄却処分を取り消すよう請求しているが、行政不服審査法第四条第一項および国税通則法第七九条第五項の定めるとおり、異議決定処分については審査請求が認められていないので、この点に関する請求には理由がない。
2 同審査請求書記載の請求の理由fにおいて「異議の申立に対して、強いて、その内容を知らせず、一方的に棄却したのは納税者の権利を著しく蹂躪した。」という理由をあげて、原処分および異議決定処分の取消を求めているが、平塚税務署長の行なつた、原処分および異議決定処分はいずれも税法、行政不服審査法、あるいは国税通則法等所定の手続にしたがつて適正になされたものである。この点に関する請求人の主張にも理由がない。
3 同審査請求書記載の請求の理由gにおいて異議決定の付記理由が十分でなく、違法であるから、原処分を取り消せという趣旨の請求をしているが、かりに異議決定の付記理由が十分でないとしても、そのことは原処分の違法事由たり得るものではない請求人の主張の趣旨は要するに、「上記川口昇名義普通預金は請求人の代表者である山田初子の個人預金であつて、請求人の簿外預金ではない」というにあるので、以下この点について判断する。
(1) 請求人は本件審査請求に対する調査において「原処分が所得金額に加えた簿外預金は、家計費として随時山田初子に支給した仮払金のうちから預け入れたものである」と申し立てているが、仮払金の払出日と預金日の間には全く関連性が認められない。
(2) 本件川口昇名義普通預金には、請求人の翌期において請求人の取引先である国立神奈川療養所の振出小切手が預入されており、また翌々期において請求人の資産の売却代金が預入されている等請求人の簿外預金であることを示す多数の事実が存するが、これらの事実との関連において請求人の代表山田初子は原処分の調査において、前記預金が請求人の売上(雑収入)脱漏に基づくものであることを認めている。
(3) 本件預金の預入状況を検討すると毎日五〇〇円ずつほぼ二日から三日の間隔で終始預入ざれており、請求人の主張するように「個人資金の運用」によるものとはとうてい考えられない。
(4) そもそも「個人資産の運用」によるものであれば本件のごとく架空名義を用いる必要はない。
以上の事実から判断すれば、本件預金は請求人の簿外預金であることは否定できないところであるので、請求人の当期の所得金額に上記金額を加算した原処分は相当であり請求には理由がない。
(b) 昭和三六年五月一日から昭和三七年四月三〇日までの事業年度
裁決 審査請求を棄却する
裁決の理由
1 昭和三九年七月二二日当局協議団が受付けた審査請求書記載の請求の趣旨において、昭和三六年五月一日から昭和三七年四月三〇日にいたる事業年度の法人税および加算税に関する異議申立てに対する棄却処分を取り消すよう請求しているが、行政不服審査法第四条第一項および国税通則法第七九条第五項の定めるとおり、異議決定処分については、審査請求が認められていないので、この点に関する請求には理由がない。
2 同審査請求書記載の請求の理由fにおいて「異議の申立に対して、強いて、その内容を知らせず、一方的に棄却したのは納税者の権利を著しく蹂躪した。」という理由をあげて、原処分および異議決定処分の取消を求めているが、平塚税務署長の行つた、原処分および異議決定処分はいずれも税法、行政不服審査法、あるいは国税通則法等所定の手続にしたがつて適正になされたものである。この点に関する請求人の主張にも理由がない。
3 同審査請求書記載の請求の理由gにおいて異議決定の附記理由が十分でなく、違法であるから、原処分を取り消せという趣旨の請求をしているが、かりに異議決定の附記理由が十分でないとしても、そのことは原処分の違法事由たり得るものではないと解されるから、請求人のこの点に関する主張にも理由がない。
4 同審査請求書記載の3、4および5の3点(「3、教示の有無」、「4閲覧請求。」、「5、口頭による意見陳述の希望」)については、それらが原処分の違法事由とならないことは明らかである。
5 以上のとおり本件更正処分および異議決定処分の各手続には請求人が主張するような違法性は存在しない。以下、当該審査請求書の6において記載されているところに従つて、原処分の内容に違法性があるかどうかを判断する。
6 請求人は、昭和三九年四月二一日付異議申立書の「異議申立の理由」中において「山田初子個人預金三九一、八四一円および二一四、〇〇〇円はすべて預け入れ総額を総収入金額に加算している。個人資金の運用が考慮されていないので、取消されるよう申立てます。」と主張している。原処分が請求人の申告所得金額に加算した簿外預金六〇五、八四一円の内容は次のとおりであつて、その預金名義人は川口昇という実在しない架空人物である。
(イ) 中栄信用金庫川口昇名義普通預金No.三八五七期中預入合計額五五六、八八一円
(ロ) 中栄信用金庫川口昇名義定期積金No.九一八七期中預入合計額四八、九六〇円
(イ)+(ロ)=六〇五、八四一円
(この金額は上記異議申立ての理由中において、請求人の主張する三九一、八四一円と二一四、〇〇〇円の合計額に等しい。)
請求人の主張の趣旨は要するに「上記川口昇名義普通預金および定期積金は請求人の代表者である山田初子の個人の預金であつて、請求人の簿外預金ではない」というにあるので、以下この点について判断する。
(1) 請求人は本件審査請求に対する調査において、「原処分が所得金額に加えた簿外預金は家計費として随時山田初子に支給した仮払金のうちから預け入れたものである」と申し立てているが、仮払金の払出日と預金日の間には全く関連性が認められない。
(2) 本件川口昇名義普通預金には当期において請求人の取引先である国立神奈川療養所の振出小切手が預入されており、また、翌期において請求人の資産の売却代金が預入されている等請求人の簿外預金であることを示す多数の事実が存するが、これ等の事実等の関連において請求人の代表者山田初子は原処分の調査において当該預金および川口昇名義定期積金が、請求人の売上(雑収入)脱漏に基づくものであることを認めている。
(3) 本件川口昇名義普通預金の預入状況を検討すると毎日五〇〇円ずつほぼ三日から五日の間隔で終始預入されており、請求人の主張するように「個人資金の運用」によるものとはとうてい考えられない。
(4) そもそも「個人資金の運用」によるものであれば本件のごとく架空名義を用いる必要はない。
以上の事実から判断すれば、本件預金は請求人の簿外預金であることは否定できないところであるので、請求人の当期の所得金額に上記金額を加算した原処分は相当であり、請求には理由がない。
(c) 昭和三七年五月一日から昭和三八年四月三〇日までの事業年度
裁決
別紙のとおり更正処分および重加算税ならびに過少申告加算税の賦課決定処分の一部を取り消す。
裁決の理由
1 昭和三九年七月二二日当局協議団が受付けた、審査請求書記載の請求の趣旨において昭和三七年五月一日から昭和三八年四月三〇日にいたる事業年度の法人税および加算税に関する異議申立てに対する棄却処分を取り消すよう請求しているが、行政不服審査法第四条第一項および国税通則法第七九条第五項の定めるとおり、異議決定処分については審査請求が認められていないので、この点に関する請求には理由がない。
2 同審査請求書の請求の理由fにおいて「異議の申立に対して強いて、その内容を知らせず、一方的に棄却したのは納税者の権利を著しく蹂躪した。」という理由をあげて、原処分および異議決定処分の取消を求めているが、平塚税務署長の行なつた原処分および異議決定処分はいずれも税法、行政不服審査法、あるいは国税通則法等所定の手続にしたがつて適正になされたものである。この点に関する請求人の主張にも理由がない。
3 同審査請求書記載の請求の理由gにおいて異議決定の付記理由が十分でなく、違法であるから、原処分を取り消せという趣旨の請求をしているが、かりに異議決定の付記理由が十分でないとしても、そのことは原処分の違法事由たり得るものではないと解されるから、請求人のこの点に関する主張にも理由がない。
4 同審査請求書記載の3、4および5の3点(「3教示の有無」「4閲覧請求」「5口頭による意見陳述の希望」)については、それらが、原処分の違法事由とならないことは明らかである。
5 以上のとおり、本件更正処分および異議決定処分の各手続には請求人が主張するような違法性は存在しない。以下当該審査請求書の6において記載されているところに従つて、原処分の内容に違法性があるかどうかを判断する。
6 原処分の認定した所得金額は二、二一五、三二六円であるが、このうち四九〇、〇八〇円は誤りで、正当所得金額は一、七二五、二四六円である。以下一、七二五、二四六円を正当とする根拠を明らかにする。
(1) 下記四口の預金は<1>請求人の資産の売却代金が預入れされている等請求人の簿外預金であることを示す多数の事実があるが、これらの事実との関連において請求人の代表者山田初子は原処分の調査において、これら預金が請求人の売上(雑収入)脱漏に基づくものであることを認めていること。<2>川口昇という預金名義人は実在しない架空人物であること等の事実からみて、請求人の簿外預金であると認められる。
これら預金の期中預入額の合計額は二、一七六、二四二円であるが、<1>川口昇名義普通預金の三八年一月一六日預入一二六、七七〇円は三七年一二月二八日付で帳簿上売上として計上済みであり、<2>川口昇名義の定期積金の期中預入額一〇一、〇四〇円は前期末在高四八、九六〇円とあわせて一五〇、〇〇〇円を満期解約したうえ、同金額を川口昇名義の普通預金に期中預入れしているものと認められ、<3>三八年一月三〇日に川口昇名義普通預金から多田畜産からの簿外仕入代二五〇、〇〇〇円を支出しており、<4>三七年八月一三日に川口昇名義普通預金から川口昇名義定期預金に三〇〇、〇〇〇円が振りかえられているほか、<5>三八年三月四日車輛購入代金として川口昇名義普通預金から支払われた五三一、〇八八円は後記(4)のとおりの事情があるので、これら金額の合計額一、三五七、八五八円を右期中預入額二、一七六、二四二円から減算した残額八一八、三八四円は請求人の申告所得金額に加算されるべきものである。
<省略>
(2) 請求人は原処分の認定した貸付金一〇〇、〇〇〇円は存在しないとして、これを異議申立ての理由の一としている。その不服の具体的内容が、川口昇名義普通預金から三七年一二月二七日に払出されている一〇〇、〇〇〇円について、右金額は古関三郎に対する貸付金であり、右貸付金は同年末に返済されて右預金に再び入金されているから、原処分の認定では二重に加算されたことになるというものである。即ちこのことは、本件審査請求に対する調査中において申請人の供述したところにおいて明らからである。しかしながら右金額の貸付金が、同年中に返済された事実を証する客観的な証拠はなく、却つて関係人等の供述によれば右金額の返済は同年中ではないと認められるので、この点に関する申請人の主張は採用できない。
また、本件審査請求に対する調査中に請求人の主張した事実即ち川口昇名義普通預金における三八年二月四日の入金一二〇、〇〇〇円は高橋義則に対する過去の貸付金に対する返済金の入金であるという事実についても、これを認めるに足る証拠がないので採用しない。
(3) 当期末には七一三、九三二円の売掛金の計上漏れが次のとおり存在するので、これを申告所得金額に加算する。
<省略>
(4) 帳簿上期末に支払手形として計上されている五六三、二〇〇円については、川口昇名義普通預金から五三一、〇八八円支払済であり、右五三一、〇八八円が正当な車輛購入代金であるから、架空支払手形として申告所得金額に加算する。
(5) 次の期末買掛金等は計上漏れであると認められるので、申告所得金額から減算する。
<省略>
(6) 以上のほか、申告所得金額に加算、減算さるべき金額は次のとおりである。
<省略>
(7) 請求人は、昭和三九年四月二一日付異議申立書の「異議申立ての理由」において「更正総額を売上に加算すると、粗利益率が二五・七%になり、食肉販売業の常識を越えた決定であるので取消を申立てる」と主張しているが、原処分の更正総額には請求人の資産(車輛)の売却代金四三〇、〇〇〇円等が含まれているので、更正総額を直ちに売上に加算して粗利益率を算出することは適当ではない。
また請求人は「食肉販売業の常識」として具体的に何%を主張するのか明らかでないので、本件審査決定に基く請求人の粗利益率の適否については理由として附記する必要を認めない。
別表
法人税の課税標準等および税額等の計算
<省略>
加算税の額の計算
<省略>